筆に感謝しお茶も楽しむ、地域に根ざした供養祭──三先天満宮(大阪市港区)

19/07/04

筆供養──供養の中では知名度が高く、全国で執り行われている行事です。お習字や勉強を支えてくれた筆記用具への感謝を込めてという、勤勉な日本人ならではの催しですね。大阪の三先天満宮(みさきてんまんぐう)では、筆供養と同じ日に献茶式も行っているそうです。

筆に感謝しお茶も楽しむ、地域に根ざした供養祭

学問の神様にちなんだ筆供養

毎日愛用し手に馴染んだ筆にも、いつか寿命はやってきます。もう使えなくなった筆を単にゴミ箱に捨てるのではなく、「ありがとう」と言って供養する儀式が筆供養です。筆イコール学問、学問の神様といえば菅原道真(すがわらのみちざね)というつながりで、天満宮・天神社で行われることが多く、他では道真に関連のあるお寺でも開かれています。氏子や檀家から寄せられた筆を一個所に集めて燃やし、祈りを捧げる「お炊き上げ」をした後、甘酒などを振る舞うのが一般的な筆供養。大々的に行い、観光の目玉としているところも多いようです。
今回ご紹介するのは、大阪市港区の三先天満宮で行われている筆供養祭です。ここでは同じ日に献茶式も行い、地域の皆さんで賑わいます。この天満宮は、創建が天保6(1835)年。あたりを開発した池田屋大吉という人物が成功を祈願して大神様を勧請しお祀りしたのが始まりです。祀られている神様は、菅原大神・住吉大神・稲荷大神の三柱。特に菅原大神は、道真が太宰府に流刑になったおり、このあたり(当時は大阪湾の一部)を通ったことから主祭神として祀られ、「天満宮」の名前の由来ともなりました。
ちなみに大阪市港区は、もともと淀川河口の三角州だったエリア。江戸時代には埋め立てによる新田開発が盛んに行われました。標高5.43mの「山」である天保山や、近年では水族館「海遊館」などのウォーターフロント開発でも知られています。

三先天満宮に納められた筆。これらを神前にお供えして供養します
三先天満宮に納められた筆。これらを神前にお供えして供養します

三先天満宮では献茶式も同じ日に開催

三先天満宮の筆供養祭は、毎年4月。多くの筆供養は「初天神=その年最初の天神様を祀る1月25日の縁日」に合わせて行われていますが、こちらではなぜ4月になのでしょう。
「地域の小学生を集めて書き初めの行事を行っていますが、そこで使う道具が集まっていくうちに筆供養祭を、という話になりました。その際『4月の献茶式と日を合わせたら』との意見も出たのです。これなら過ごしやすい季節に、参拝の皆さんが境内でお茶席も楽しんでいただけます」と、宮司の村岡康生さん。境内に設けられた祭壇に、参列者が持参した使い古しの筆や鉛筆、ペンなどの筆記用具を納め、書道・文字・学業・習い事の上達をお祈りします(それらを燃やす炊き上げ供養は後日お祓いの後に執り行うとのことです)。祭典の途中でお茶もお供えし、献茶式となります。そしてお茶を点て、生菓子とともにお茶席でふるまいます。
毎年楽しみにしている皆さんも多く、東京などの遠方から筆を郵送したり、「親と自分の分です」と300本近くの筆を持ってきたりという人もいるそう。「学生さんなど若い世代がペンなどの供養をといらっしゃるのも嬉しい限りです」と村岡さん。
三先天満宮は決して大きな神社ではありませんが、その分地域の皆さんとのつながりは深いものがあります。子どもたちの手形を使った鯉のぼりを作って飾ったり、夏祭りで小さい子どもたちが笛や太鼓を演奏したり、『この神社に見守られて育った』という気持ちは大人になっても忘れません。

献茶式の様子。この後、生菓子とともにお茶をいただきます
献茶式の様子。この後、生菓子とともにお茶をいただきます

供養は感謝。日本の根源がそこにあります

「古来より、日本人は森羅万象あらゆるものに畏敬の念を持ち、感謝を捧げてきました。そこに八百万(やおよろず)の神々を見出したのです」と村岡さんは語ります。「八百万の神々のおかげで作物が育ちます。それをいただいて生活の糧とすることに対して、神々への感謝の祈りを捧げてきました。これが供養という概念で、日本の根源とも言えるでしょう」
供養というと、亡くなった人への弔いと考えてしまいがち。しかし神道では、亡くなった人は神となり天上へ帰ります。そのため、先祖を供養することを祖霊祭と呼ぶのだそうです。「物」に宿るのも神様、亡くなった先祖も神様。なるほど、私たちが生かされているのはすべて神様のおかげ。それに対するありがとうの気持ちが、神社で自然と手を合わせる行為につながるのでしょう。
9月4日「供養の日」にも代表されるように、お世話になった物への感謝を当たり前に行ってきた私たち。「もったいない」と思う気持ちとも、どこか共通の根っこがあるような気がします。ネット中心の時代になったとしても、こういった心は絶やさぬよう子孫に伝えていきたいものです。三先天満宮での行事は、まさに供養の心を育む取り組みと言っていいかもしれません。

参拝者は、地域の皆さんが中心。土地を守ってくれる神様への感謝を込めて
参拝者は、地域の皆さんが中心。土地を守ってくれる神様への感謝を込めて

取材協力:
三先天満宮 大阪市港区三先1-5-40  http://www.tenmanguu.net/

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