新型コロナの影響で出荷されない農作物が教えてくれること

20/06/22

世界中で猛威を振るい続けている新型コロナウイルス(COVID-19)。日本でも4月に発出された緊急事態宣言により、人々が外出自粛を余儀なくされ、期間中、経済活動はほぼストップしました。こうしたなか、飲食業界では売上減に加え、食材の過剰在庫に悩む企業や店舗が続出し、生産者の方々も販路に困るなど、大きな影響を受けています。一方、この状況を打破しようとする新しい動きが生まれているのもまた事実。今回は、コロナ禍の今だからこそ、なおさら知っておきたい、行き場を失った食べ物や生産物に対する様々な取り組みについて、ご紹介したいと思います。

感謝の思いを“供養演奏”に込めて

感謝の思いを“供養演奏”に込めて

引用:佐賀新聞LIVE

新型コロナの影響により、全国の農家では、出荷できず農作物の廃棄を余儀なくされたところも多かったと聞きます。佐賀県の白石町では、こうした農作物に対し、珍しい供養が行われ、話題となりました。
佐賀新聞の記事では、薩摩琵琶奏者の北原香菜子さんが、《タマネギ畑で新型コロナウイルスの影響で出荷できなかったタマネギが土に返れるよう“供養演奏”を行った。(中略)次の作物づくりの養分になるようにタマネギがすき込まれた畑で、「肥前の風よ 肥前の土よ」と、般若心経をベースとした供養曲を演奏した。「毎日おいしくいただいて、私の血肉となっているタマネギたちが、自然に返れるよう思いを込めた」》と紹介しています。
私たち日本人は、幼いときから、肉や魚、野菜、果物にも命があり、それを自分の命のためにいただくことへの感謝の気持ちを込め、「いただきます」と挨拶して食事するように育てられます。きっとこの“供養演奏”は、「いただきます」という感謝と労いの言葉に代わって、タマネギを送り出し、苦労して育ててこられた生産者の皆さんの心も慰めたことでしょう。
今回のコロナ禍では、やむなく廃棄される食材がある一方で、廃棄処分にならないようにするための様々な取り組みも各地で行われています。その一つが、給食未利用食材を対象とした通信販売です。3月上旬の全国一斉の休校措置は、学校給食に関わる食材の納入業者や生産者に、パンや牛乳、野菜…備蓄の利かない食材をどうすればいいか、大きな動揺を与えました。しかし、この状況を受け、農林水産省や関連団体等が協力し合い、給食用に納入予定だった食材と消費者をつなぐマッチングサイト『食べて応援!学校給食キャンペーン』を開設。結果、多くの食材が無駄にならず、たくさんの生産者が救われたと聞きます。こうした“食べ物に感謝し、おろそかに扱わない”供養の気持ちの表れのような取り組みは給食関係にとどまらず、観光客の減少やイベント中止などで販路に困る食材を救おうとする販売支援ページも次々立ち上がるなど、各地で広がりを見せています。

コロナ禍における食品ロス削減

コロナ禍における食品ロス削減

『食べて応援!学校給食キャンペーン』は大好評を博し、運営した『うまいもんドットコム』(株式会社 食文化) によれば、期間中(3/16〜5/7)の販売総重量は累計約282トン。お茶碗にしてご飯112万杯分の食材が無駄にならずに済んだそうです。
本来食べられるのに廃棄されてしまう食品を“食品ロス(フードロス)”といいますが、現在、地球上では世界の全人口を賄える約40億トンにも及ぶ食糧が生産され、そのうち約3分の1にあたる13億トンが、先進国などにおいて、過剰供給や売れ残り、食べ残しなどの理由で廃棄されているといいます。一方、途上国では食糧不足の地域があり、飢餓に苦しんでいる人が多いのも現実です。平成30年度の消費者庁の資料によれば、日本でも食品廃棄物は年間2,842万トン、そのうち食品ロスが646万トンもあると報告されています。
そうしたなか、近年日本では『フードシェアリングサービス』という取り組みが始まっており、コロナ禍においてその活動を推進する自治体も増えています。これは、近隣の飲食店で売れ残り、捨てるしかない食品を、ネット上のサイトやスマホのアプリなどを通じ、必要とする人に紹介・案内して、割引価格で再流通させる取り組みです。同サービスの一つ、フードシェアリングプラットフォーム『TABETE(タベテ)』を運営する株式会社コークッキングによれば、購入することを“レスキュー”と呼び、「食品ロスになりそうな料理を、食べ手(=TABETE)がヒーローになって助ける」というストーリー性を持たせているそうです。
コロナ禍に苦しむ生産者や従事者の救済を主目的とする『食べて応援!学校給食キャンペーン』と少し趣旨は違いますが、『フードシェアリングサービス』も消費者を巻き込んで、結果的に “食べ物=いただく命に感謝を込め、大切にしよう”とする動きであることに変わりはありません。コロナ収束後も一つの食文化として人々に定着しそうです。

参考・参照サイト
うまいもんドットコム
日経クロストレンド

“持続可能な”活動を支える供養の精神

“持続可能な”活動を支える供養の精神

コロナ以前から各地で展開されてきた活動に『フードバンク』があります。これは、生産や流通の過程で、規格外・余剰生産・包装の破損・印字ミス・賞味期限といった理由で廃棄されそうな食品・食材を、企業や生産者、農業協同組合等からNPO法人等の団体に寄付してもらい、支援を必要としている福祉施設などに譲渡する取り組みです。この活動は農林水産省も推進しており、令和2年3月末現在、全国で120団体が活動を行っています。
また、形やサイズ等の問題で市場に出ない野菜や果物を積極的に受け入れ、新たな商品を開発して有効活用している企業もあります。東京の株式会社サンシャインジュースでは、コールドプレスジュースにして販売しているほか、搾りかすをスープやカレーなどの材料として再利用するなど、材料を無駄にしないよう徹底しているそうです。また、北海道の株式会社NIKI Hillsヴィレッジのワイナリーでは、廃棄農作物を使い、化学物質過敏症の方も安心して使えるクレヨン「ニキヒルズ ナチュラルクレヨン」を開発し、話題を集めています。こうした企業の取り組みがビジネスとして広がることで、さらなる食品ロス削減につながることでしょう。
食品ロスは生産者や業者だけの問題ではなく、私たち消費者一人ひとりにも、できる活動があります。たとえば、もらった贈答品やお菓子、残った食品など、家庭で余っている食べ物を捨てずに寄付する『フードドライブ』という取り組みをご存知でしょうか。私たちもできることから積極的に行い、食品ロス削減に貢献していきたいものです。
最近“サスティナブル(Sustainable)”という言葉をよく耳にします。“持続可能な”という意味で、国連では2015年9月に、貧困や飢餓、環境問題、経済成長やジェンダー等、国際社会共通の“持続可能な”開発目標『SDGs(エスディージーズ:Sustainable Development Goalsの略)』が採択されています。そこでは、2030年までに世界全体で一人当たりの食品ロスを半減させるとしています。その意味で食品ロス削減にまつわる取り組みは、どれも“サスティナブルな活動”といえ、それらの根底に命をいただくことへの感謝の気持ちがあることを考えると、“供養”は“サスティナブルな精神”といっても良さそうです。

参考・参照サイト
ecoistエコイスト
PR TIMES

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