家を建替えるときに行いたい供養の儀式

20/10/28

 今年は、新型コロナウイルスの影響により、誰もが自宅で過ごす時間が増え、人生や暮らしの拠点としての“家”の在り方を捉え直したり、そのありがたみを改めて感じた人も多いことでしょう。なかには、家の新築や建替えを真剣に考え始めたという方もいらっしゃるかもしれません。今回は家づくりにまつわるお話。皆さんは、いま住んでいる家を新しく建替えるとしたら、古い家とはどのようにお別れしますか?これから一緒に、家の建替え時に、古い家に対して行う供養のことを考えてみましょう。

これまで暮らした家屋に感謝を込めて

これまで暮らした家屋に感謝を込めて

 長い間、家族との暮らしを守り支えてくれる住まい…、家族とのたくさんの思い出が詰まった家…。もしあなたがいま住んでいるその家を新しく建て直す場合、古い家とは解体というカタチでお別れしなければなりません。ずっと暮らし続けてきて愛着や思い入れが強い家であるほど、気持ちの整理をつけることは難しいものです。そんなとき、次のステップに進むための“区切り”として行う、建物に対するお別れの儀式があります。
 家づくりにおける儀式(お祓い)といえば、皆さんは「地鎮祭(じちんさい)」や「上棟式」が頭に浮かぶことでしょう。特に「地鎮祭」は、古くから一般的に行われていますので、実際に立ち会った経験がある方や見たことのある方も多いかと思います。「地鎮祭」はこれから家を建設しようとする段階で行う儀式ですが、逆に古い家を取り壊す直前に行う儀式もあります。
 一般に、建物(家)を取り壊す際に行うお祓いを「解体清祓(かいたいきよばらい)」といい、「解体式」等と呼ぶこともあるようです。建物がその役目を終えたときの供養の儀式といってもいいかもしれません。「地鎮祭」と似ているように感じますが、お祓いのタイミングが違うように、趣旨も「地鎮祭」とは少し違います。
 「地鎮祭」は、解体工事が完了した更地の状態で行うもので、建物の新築工事を始めるにあたって、土地の守り神に対し、建設工事の安全、今後の土地や建物の安全や平穏な暮らしを祈願するための儀式です。一方「解体清祓」は、古い家を解体するにあたり、建物がまだある状態で、長年お世話になった家(建物)、これまで守ってくれた家屋の守り神に対し“ありがとう”という感謝とお礼の気持ちを示すためのもの。そして、家の取り壊しをする報告とその許しを得て、建物に宿っている気や魂を抜き、これからの解体工事が安全に終わるように祈願することを目的としています。
 この「解体清祓」は一般にあまり知られておらず、行う方は「地鎮祭」よりもかなり少ないですが、取り壊す家に対する供養として大切な儀式といえます。執り行う際は、通常、解体業者に相談した上で、神社の神主に依頼をし、家の敷地内で行います。

参考・参照サイト
解体工事の情報館 運営:社団法人 あんしん解体業者認定協会
お掃除・お片づけで日本中を幸せに たまみ.net

忘れてはならない建物以外に対する供養

忘れてはならない建物以外に対する供養

 家の建替えを進めるにあたっては、建物の「解体清祓」以外にも、敷地を更地にするために壊したり解体するものがあれば、お祓いをすることがあります。まさに、日本に古くから根付いている“あらゆるものに命が宿る”「八百万の神」という考え方のあらわれといえるかもしれませんね。
 その一つが敷地に井戸がある場合に行う「井戸清祓」。「井戸埋清祓(いどうめきよはらい)」や「埋井祭(まいせいさい)」と呼ぶこともあります。昔から井戸には水の恵みを与える神様が宿るといわれており、勝手に処分すると悪いことが起こるとされてきました。そのため、井戸がある古い家では、家の建て替えに際して「井戸清祓」を行う方が多いようです。井戸に宿る神様に感謝を伝え、井戸を埋めることを報告し、その許しを得た上で、工事の安全と災厄がないことを祈願してから解体工事に入るのです。「井戸清祓」は「解体清祓」と一緒に行うケースも多いようですので、併せて解体業者に相談されてみるとよいかもしれません。
 次に、敷地内の樹木に対して行う「樹木祓」という儀式をご紹介しましょう。その地に長く生い茂った樹木には、昔から精霊が宿るといわれ、簡単に切ったりすると縁起が悪いとされていました。そのため、敷地内で大きく育った樹木を伐採するときには、お祓いをするケースがあります。移植するという方法もありますが、どうしても伐採の必要が生じた場合は、「樹木祓」の儀式にて神主からお祓いを受ける方が多くいらっしゃいます。また、敷地内に古い祠(ほこら)があるケースも同様に、感謝の気持ちと建替えの報告を兼ねて、神主にお祓いしてもらうことをお薦めします。
 庭の木に限らず、それまでそこに当たり前に存在していたものが消えるのは、やはり寂しいことです。気持ちを整理する上でも、建物を供養するとともに、家族の暮らしを敷地内で見守ってくれた井戸や樹木に対しても、感謝の気持ちを示してあげることは、家の建替えにおいて大切なことではないかと思います。

参考・参照サイト
解体工事の情報館  社団法人 あんしん解体業者認定協会運営

新居で気持ちよく新生活を始めるために

新居で気持ちよく新生活を始めるために

 これまで「解体清祓」「井戸祓」「樹木祓」をご紹介しましたが、家を建替える場合にほかにも必要な儀式はないのでしょうか。壊したり処分したりすることとは違いますが、仏壇や神棚を移動する際に行う儀式もあります。
 魂が宿るといわれる仏壇や神棚は、家の同じ場所に設置されていることが多いため、一時的であっても場所を変える際には、いったん魂を抜く儀式を行い、ただのモノに戻して扱うのが良いとされています。この「魂抜き」と呼ばれる儀式も、それまでの感謝を伝え、あとに続く工事の安全や今後の平穏を祈願して行います。「魂抜き」を行った場合、無事に新居が完成し、新しい部屋に運び込むときには、再び魂を宿す「魂入れ」をしてもらうこともお忘れなく。仏壇の「魂抜き」「魂入れ」はお寺に、神棚の場合は神社に依頼するのが一般的です。
 家を取り壊すということは、長年慣れ親しみ、家族の暮らしを守ってくれた場所と最後に向き合うことであり、そう簡単に割り切ってできることではありません。せめて、今までお世話になった家に感謝を込めて、「解体清祓」などを通して、しっかり供養してあげたいものです。その際には、あなたと同じようにこの家にたくさんの思い出があり、愛着の強い、ほかのご家族や親族もいらっしゃいますので、その方々の気持ちも尊重したカタチでのお別れの儀式にしてあげてください。
 家に対する供養の儀式を絶対に行わなければならないという義務はありませんが、執り行うことによって心にゆとりが生まれますし、また、各工事に関わる業者が、安心して工事を進められることにもつながります。何も大掛かりに行う必要はありません。無理のない出費の範囲で考えればよいでしょう。これまで暮らした古い家に対し、敬意と感謝を込めて供養することは、これから数十年にわたって新しい家で気持ちよく暮らしていくための第一歩となり、家族の幸せな未来へとつながっていくのではないでしょうか。

参考・参照サイト
くらそうね
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