廃校になってしまった学び舎の行く末

21/05/12

 GWも終わり、各地の学校現場では、子どもたちや先生に落ち着いた日常が戻ってきた頃ではないでしょうか。少し前の卒業・入学シーズンには、年度が変わる区切りの季節ということで、子どもたちのたくさんの喜びのシーンとともに、統廃合により閉校や廃校となる学校のニュースもいくつか耳にしました。そこで今回は、この春に閉校した学校、廃校になった学校とのお別れの儀式を取り上げつつ、教育施設としての役割を終えた学校がその後どうなるのかまで、追いかけてみることにします。

役割を終えた学校とのお別れ

役割を終えた学校とのお別れ

 文部科学省によると、2002〜2017年に廃校となった公立小・中・高等学校等の数は7,583校(2018年の調査結果より)。「平成の大合併」と呼ばれる市町村合併と、少子化の影響により、学校の統廃合が相次ぎ、毎年400〜500校が廃校になってきたといわれます。今年も3月の卒業式に合わせて多くの学校が閉校式を行い、その歴史に幕を降ろしています。大都市でも、山間部であっても、学校は教育施設という役割に加え、地域コミュニティの象徴でもあります。愛着のある学校の閉校は、在校生はもちろん、卒業生や先生、地域の方にとって、とても寂しいものであり、廃校となる学校では、それぞれに心のこもったお別れ会が行われました。
 両丹日日新聞の記事(2021年3月29日付)では、中小一貫校に統合される京都府福知山市大江町の3つの小学校で行われた各お別れ会の様子が紹介されています。思い出の写真と映像、感謝を込めた合唱、別れの言葉の発表、記念のバルーンを飛ばすなど、それぞれの学校で地域住民らが集い、学び舎との思い出を語り、別れを惜しんだようです。岩手県花巻市立亀ケ森小学校では、学校敷地内に建てられた閉校記念碑を除幕し、児童らが最後の校歌を歌い、石碑と一緒に記念撮影。閉校式典では校長が《「閉校はゴールではなく、子供たちにとっては新たなスタートであり、旅立ち。地域や先人の思いを忘れず、大きく羽ばたいてくれると信じている」と児童に呼び掛けた》(岩手日日新聞 2021年3月21日付)とのことです。お別れ会はいろいろな形で行われ、特に取り壊しが決まった学校では、全国に散らばった卒業生たちも参加して最後の見学会を行うなどのイベントを開催して別れを惜しむケースもあるようです。「墓じまい」ならぬ「学校じまい」。思い出とじっくり向き合い、感謝の気持ちを新たにする貴重な時間となったのではないでしょうか。
 友だちと一緒に学び、遊んだ校舎、運動場、体育館…そこには、子どもたち、親たち、そして地域の思い出がたくさん詰まっています。寂しいですが、閉校する際には別れの機会を設け、学校に対し地域ぐるみで「ありがとう、さようなら」と感謝の気持ちを伝えたいものです。それは、学び舎としての役割を全うした学校に対する供養であり、学校で過ごしたかけがえのない日々を、一人ひとりがこれからの生きる糧にしていくために必要な儀式といえるでしょう。

参考・参照サイト
両丹日日新聞
岩手日日新聞社

残された価値をおろそかにしない

残された価値をおろそかにしない

 ここからは、学校が廃校になったあと、どうなるのかについて見ていきましょう。そもそも廃校とは、地域の児童生徒数の減少により、学校が近くの学校と統合されたり、閉校になることで、学校施設としての役割を終えることをいいます。ですから、校舎や体育館などの施設自体は、まだまだ使えるものも多く、たとえ活用されなくとも、余程老朽化していない限り、建物が取り壊されることは少ないようです。公立学校の校舎や体育館などは、国の補助金等で建設されており、廃校となる施設には約200億円以上の価値があるといわれ、しかも保有面積が大きく、地域住民に親しまれているという無形の価値も含まれます。そのため、廃校後、施設はさまざまな方法で活用されるケースが多いのです。
 実際、冒頭でご紹介した2002年から2017年までに廃校になった7583校のうち、約75%が新たな用途で活用されており(2018年文科省調査より)、特に都市部では建物や土地の活用に対する需要が大きく、校舎が新しく駅から近い事例ほど、ほぼ再利用に至っているようです。
 活用の内訳としては、校舎や体育館などの7割近くの施設が、社会教育施設(公民館、生涯学習センター等)や社会体育施設(スポーツ施設や地域のグランド等)、体験交流施設、研修施設、福祉・医療施設、庁舎等、地域のニーズに合う新たな用途で再生しています。立地条件や改修費用などの難しい面もありますが、地域コミュニティの中心を担ってきた廃校舎の多くは、このように新たな価値を地域に創出する場所へと生まれ変わっているのです。
 こうした廃校施設の有効活用は、お世話になった学校に感謝し、おろそかに扱わないという意味では、供養の精神に通じるものがあるといえましょう。地域の人々にとっては、大切な思い出の証しが残るということであり、学校への感謝の気持ちをいつまでも忘れずに次世代につないでいけるということでもあります。また、学校にしてみても、本来の役目を終えたあとも地域の発展に貢献していけるのは本望なのではないでしょうか。文部科学省は現在、「『みんなの廃校』プロジェクト」を立ち上げ、廃校になった公立学校施設の有効活用を推進しているところです。廃校施設の情報を集約して公表し、補助金制度を紹介しているほか、各地方公共団体において活用方法や利用者を募集しています。

参考・参照サイト
未来につなごう〜『みんなの廃校』プロジェクト 文部科学省

地域の新たな顔として有効活用

地域の新たな顔として有効活用

 廃校利用は、もともとが学校の施設だったこともあって、公共的な用途が多くを占め、民間の活用がまだ多くないのが現状です。しかし、なかには、学校の跡がユニークな施設として生まれ変わり、地域の新しい顔となっている活用例もあります。廃校利用のメリットとしては、同規模の建物を建設する場合と比べて費用が格段に安く済むこと。そうした意味で成功例として多いのが、廃校をリノベーションして宿泊施設として活用しているケースです。理科室、音楽室、家庭科室など、学校として使われていたときの教室をそのまま活かしてノスタルジックな雰囲気を楽しめる施設も多く、加えて、おいしい郷土料理やリーズナブルな宿泊費用も魅力。プールや体育館、校庭も利用できるようにして、ちょっとしたリゾート気分を味わえるところもあるようです。
 宿泊施設以外では、地域独自の特徴を活かした再利用で注目を集めている施設もあります。たとえば、2018年に四国・高知県にオープンした『むろと廃校水族館』(高知県室戸市室戸岬町533-2)。その名のとおり、廃校を活用した水族館として、室戸の海域で生息している海洋生物の飼育・展示・研究を行っている施設です。ウミガメの水槽としてプールを使用するなど、ユニークな活用が注目を集め、人気を呼んでいます。また、佐渡ヶ島では、2014年から企業が廃校を酒蔵として再生している例があります。その名も『学校蔵』(新潟県佐渡市西三川1871)。「酒造り」以外にも「学び」「環境」「交流」を含めた4つの柱で運営され、酒造りの体験希望者は国内だけでなく、アメリカやスペインからも訪れているそうです。
 このように廃校利用は、自治体や地域と事業者それぞれが創意とアイデアで新たな活用案を生み出せば、地域の新しいビジネスや観光資源となり、再び地域を活性化させる可能性を秘めています。世界共通でSDGs(エス・ディー・ジーズ)が叫ばれ、サスティナブル(持続可能)な活動が求められる現在、学校施設を壊さずに再利用するという方向は、地域やそこに暮らす人々にとって、廃校になった学校に対する一つの理想的な供養といえるかもしれません。なぜなら、自分たちの思い出を刻んだ大切な場所が消えることなく、再び地域に新しい希望と価値をもたらしてくれ、そのことに次の時代も感謝し続けていけるわけですから。

参考・引用出典
むろと廃校水族館 公式Twitterより

参考・参照サイト
学校蔵

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