21/10/26
毎年9月4日は、供養の大切さを改めて考え、先祖や家族をはじめとする「人」や「もの」に感謝の気持ちを寄せる機会を創出することを目的に制定された「供養の日」です。一般社団法人 供養の日普及推進協会では、去る2021年9月4日、 国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)にて、供養に関する深い見識を持つ4名のパネリストを迎え、「供養と感謝を考える〜供養の心は本当に薄れつつあるのか〜」というテーマで特別座談会を開催しました。今回は、このときの様子を、いくつかのお話をピックアップしながらレポートいたします。
参加パネリスト(左より)
山田慎也氏:国立歴史民俗博物館教授 民俗学者
馬淵澄夫氏:衆議院議員
小仲正克氏:(株)日本香堂ホールディングス代表取締役社長
保志康徳氏:一般社団法人PRAY for (ONE)代表理事
座談会は、まずそれぞれの供養と感謝の経験をお話しいただくことからスタートしました。
僅か半年のうちに両親ともに亡くすという経験をされた馬淵氏は、大変な喪失感のなか、先祖供養に行くようになったそうです。「毎月お墓を掃除して花を手向け、お経を上げていただくうちに、私のなかでだんだん気持ちが落ち着いてきました。供養や感謝ってなかなか実感できる瞬間はないかもしれませんが、私にとっては先祖供養のお墓参りを繰り返すことによって、知らない祖先にまで供養・感謝の思いがいたるようになったと思っています」とのこと。 一方、小仲氏は、供養と感謝を感じたエピソードとして、祖父のお通夜において、お線香を絶やさないように、祖父の横で夜寝ることになったときのことを挙げられました。「話したこともあまりなかった祖父でしたが、そのとき、すごく距離が近くなった感じがしました。もう少しいろんなことを話せば良かったなとか、祖父がいたから、いまの自分があるんだという、その感謝の気持ちを心のなかで何度も唱えました」と述懐されました。 保志氏からは、家業の仏壇屋を継ぎたくないと、祖父に宣言しに行ったときのエピソードが語られました。子供の頃 “人の死で儲かる商売はいいな”と友達から言われ心を痛めたことを話したところ、祖父から“お仏壇を買いに来られる人の気持ちを考えたことはあるか”と聞かれたそうです。「悲しい気持ちの人が、私たちの作ったお仏壇に手を合わせ、悲しみから救われ、少し心が和む。こんなありがたい仕事はないと、祖父に言われました」。家業を継いだ現在は、祖父の言葉を改めて感じているそうです。
そして、山田氏は、供養と感謝に関する象徴的な儀礼として、佐渡島の例を紹介されました。佐渡では法事のことを“仏を言い出す”といい、故人を口にして思い出し、その場に招くという意味があるそうです。佐渡の場合、葬儀のとき、亡くなった人にも食事を3食供え、三回忌まではこれを続けるとのこと。「故人をある意味生きている人と同じように養うという儀礼を経て、死者と共にいる、記憶を共にすることになります。感謝や悲しみ、追慕など、生前の様々な想いを込める場が供養ではないでしょうか」。
話のお題目が座談会のメインテーマである“供養と感謝の心は本当に薄れつつあるのか”に移ります。
まず馬渕氏が自身の経験に基づく考えを述べられました。「供養や感謝という思いを伝えていくことは、その行動を見せていくことではないでしょうか。仏壇に毎日手を合わせることで、子どもや孫たちも習慣になっていく。お墓も重要なモニュメントで、墓石があることによって、家族親族がそこに集うことができる。目に見えない祈りだけではなく、供養と感謝を具体的にどう形として見せていくか、これからの課題として考えていかなければならないと思っています」。
続いて小仲氏は、ある調査を例に挙げられました。世界の13カ国を対象とするその調査では“信仰心はあるか”という質問に“ある”と答えた日本人は13カ国中12位、そのうち“ない”と答えた人の半数以上が“信仰心は大切”と答えて13カ国中1位だったそうです。「いまの日本人の多くが信仰心はないけれど、それは良くないと思っています。その意味で、供養意識を故人や先祖に対してという視点から、身近な人に置き換えたり、いまの人たちが納得する形にしていくことも大切かと思います」と新たな方向性を示されました。
保志氏は、何でも便利になり、お金があれば欲しいものも簡単に手に入る時代のなかで、供養が何か特別なものになりつつあるのではないかと指摘。「供養は大切な行為ですが、ある意味、便利さや効率に反するような行いでもあります。いまの人たちが供養する気持ちを失っているのではなく、それを示すのが従来の仏壇でないかもしれないし、いままでの葬儀の形でないかもしれません。それに応える新しい形を生み出していくことも、私たちの業界、団体として大事なところではないかと思っています」。
そして山田氏も、事故現場や震災の現場で供えられている花や飲み物を例として、供養の想いは形が変わっても、決してなくなっておらず、現代でも根強いと話されます。「昔であれば、弔意を表したいとき、“お線香一本上げさせてください”という言い方がありましたが、仏壇もない家でお線香を上げさせてくださいというわけにはいきません。その寂しい気持ちをどう共有したらいいか、それがいま変化の途上にあると思います」と指摘されました。
座談会後半は、それぞれに専門分野の違うパネリスト同士で質問し合い、互いに答えるというユニークな質疑応答が行われました。そのなかから一部、お線香についてのやり取りをご紹介しましょう。
まず、お線香の香りが好きと言われる馬渕氏から、「お線香の香りに関して、こんな場合はどのお線香を使うとか、何か決まりがあるのでしょうか」という興味深い質問が小仲氏へ投げ掛けられました。それに対し、「日本人は歴史的に、家のなかでは沈香や白檀、お墓参りには杉線香を焚いてきました。沈香や白檀の香りは、身体に良いし、リラックスできるといわれ、杉のお線香はグリーン感のある香りで、何かホッとする、とてもいい香りです」と小仲氏。
このお線香についてのやり取りは、最近煙が出ない、香りが少ないタイプに加え、灰も出ないお線香もあるという話題から、近年の住宅事情やライフスタイルの変化のなかで、お線香本来の“清める”意味合いとどう向き合い、さらには供養の心を寄せる場所をどのように作っていくか、といった問題提示へと発展していきました。そうした課題に対し、保志氏は「日常の生活、価値観や時代の変化によって、形は変わっていっても良いのではないかと思います」と述べられ、続けて山田氏が「文化は一度絶えたらそれで終わってしまうので、昔こうだったことが、こんな変遷を経て、いまこう変わったという知識をある程度持っていることも重要。そうした歴史は、改めて見直すときに取り出せるよう覚えておく必要があります」と付け加えられました。
ほかにも、たとえば、国会議員の馬淵氏に対し、供養に関する国としての施策についての質問が出たり、民俗学者の山田氏が土葬という葬送儀礼や天皇家の習慣である殯(モガリ)について説明されたり、コロナ禍で盆踊りやお祭りが中止になっていく危機感について意見交換が行われるなど、興味深い話題が数多く見られ、盛り上がりを見せました。
最後、まとめの言葉として、山田氏が「日本の供養は、いろいろな人を巻き込み、ある意味人々のつながりをつくり、社会を形成するという機能があったことを考えると、何かと分断し、個人化する現代のなかで、供養の歴史文化を再認識し、現代にあった形を、みんなで模索して行く必要があると感じます」と述べられ、「供養の日」を記念する座談会は幕を閉じました。
この座談会の模様は、現在YouTubeチャンネルで公開中です。ここにご紹介した以外にも、対談のなかでたくさんの面白い話題や役立つ情報が登場しますので、ぜひ下記URLからアクセスいただき、じっくりとお楽しみください。そして、9月4日の「供養の日」を、供養の意味や大切さを考えるきっかけにしていただけたら幸いです。
参考・参照サイト
2021年供養の日(9月4日)「供養と感謝を考える特別対談」