折れたバットは、その後どうなるのか

22/4/26

 球春到来!日本のプロ野球が開幕し、労使交渉の長期化が心配された海の向こうの大リーグも一足遅れで公式戦がスタートしました。野球ファンの皆さんは、もう既に贔屓のチームや選手の応援に大いに盛り上がっていることでしょう。昨年世界中を熱狂させたロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手をはじめ、今年も多くのプレイヤーたちのグラウンドでの活躍に期待したいところです。今回は、そんな野球にまつわる話題を取り上げてみます。

破損したバットへの感謝を込めて森を再生

破損したバットへの感謝を込めて森を再生

野球ファンなら、ピッチャーとバッターの真剣勝負で、豪速球がバットを真っ二つに折るシーンも楽しみの一つ。木製バットは力と力の勝負の中で折れやすいため、身近な人の中にもせっかく買ったバットが、すぐに折れてしまったという経験をされた方がいるかもしれません。ところで、プロ野球の試合を見ていて、その折れたバットがそのあと、どうなるのか考えたことはありませんか。
メジャーリーグでは、試合中の折れたバットがオークションにかけられ、チャリティー団体へ寄付されることがあり、人気選手のバットなどが高額で落札され話題になりますが、通常はそのまま廃棄されることが多いようです。日本プロ野球でも、かつては焼却処分していたといいます。しかし現在は、折れたバットを、リサイクルする日本球界の動きが生まれ、その活動はニューヨーク・タイムズに紹介されるなど、米国でも反響を呼んでいます。
プロ野球などで年間約20万本も消費されるといわれている木製バット。材料は主にモクセイ科の温帯性広葉樹「アオダモ」で、その成長は使える大きさになるまで60~70年かかり、1本の木からは4~6本のバットしか作れないそうです。そうした中、植林や伐採が計画的にされてこなかったため、材料としての確保が難しくなっていました。そこで、福井県小浜市にある箸の製造会社・兵左衛門が取り組み始めたのが、プロ野球や社会人野球などで破損したバットを再利用して箸を作り、その収益をアオダモの植樹に活かす『かっとばし‼プロジェクト』。毎日新聞の記事(2021年8月10日付)では、《回収されるバットの数は年1万~2万本。1本のバットから4~5膳の箸ができるという。同社は数年かけて各球団などに協力を取り付けて回った。現在では、プロ野球の選手会のサイトでも紹介されている》と伝えています。
今や12球団のロゴが入った箸『かっとばし!!』は、ファンの間でお馴染みの商品。同社は『折れたバットから作ったシリーズ』として、スプーンやフォーク、印鑑といった商品も製造し、売上げの一部はNPO法人「アオダモ資源育成の会」を通じ、木製バットの原材料となるアオダモの植林に使われています。一度役割を終えたバットに感謝と敬意を示し、そこから将来の新たなバットを再び産み出していこうとするこの取り組みは、日本の野球界全体の長期的な供養のプロジェクトともいえそうです。

参考・参照サイト
毎日新聞 2021年8月10日記事
かっとばし!!プロジェクト

愛着ある道具を、途上国の野球発展につなげる

愛着ある道具を、途上国の野球発展につなげる

では、野球をスポーツや余暇の運動として楽しむ一般の私たちは、使わなくなった道具に対して、どのように感謝し、お別れを告げればよいのでしょう。
たとえば、お子様が少年野球や学校の部活動などで使われたグローブやバット等の野球用品が、成長とともに不用になることがあります。そうした場合、ゴミとして捨てたり、処分するのは忍びないとして、人形供養などと同じように神社や寺院でお焚き上げして供養する方も多いようです。一方で、世界には中古品や傷がある野球用品でも、喜んで使ってくれる人たちがたくさん存在しているのもまた事実。そうした途上国に対し、要らなくなった野球の道具を集め、寄付している活動があるのをご存知でしょうか。
たとえば、公益財団法人全日本軟式野球連盟では、世界中の子どもたちに楽しく安全に野球に携わって欲しいとの思いから、使わなくなったグローブやバット、スパイク・ヘルメット・キャッチャーマスクやプロテクターなどを募り、野球途上国を中心に用具提供を行う活動をしています。ほかにも、同様の趣旨で途上国への野球用品の寄付をしている団体・組織は多いようです。「まだ使えるので処分はしたくない、できれば誰かに使って欲しい」という方がいらっしゃるのであれば、検討されてみてはいかがでしょう。
自分が愛着を持って使ってきた野球用具が、その役割を終えてからも大切にされ、存在していくことは、きっとお子様たちの情操教育にもつながるはず。自分が使ってきたバットやグローブが海を渡り、それを使って練習した子どもたちの中から、いつしか将来のメジャーリーガーが誕生するかもしれないと思うと、夢がありますよね。こうした途上国への寄付という取り組みは、野球用品に対するワールドワイドな供養のプロジェクトともいえるかもしれません。

参考・参照サイト
公益財団法人全日本軟式野球連盟

名選手を生むのは、ものを尊ぶ供養の心

名選手を生むのは、ものを尊ぶ供養の心

現役時代、西武ライオンズなどで活躍した清原和博氏は、折れたバットは必ず持ち帰り、保管してシーズンオフに奈良の神社に持ち込み、供養して焚き上げてもらっていたといいます。ソフトバンクなどで活躍した小久保裕紀氏も、シーズン中に折ったバットを、一本ずつ包帯を巻くようにテーピングしてお寺に持参し、“バット供養”として焼香し手を合わせていたそうです。
また、大リーグのヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏は、あるインタビューの中で、《道具って、本当は心はないんだけど、もしかしたら…心があるんだと思って、いつも接していました。そうすれば、試合のとき、試合を左右しそうなギリギリのプレーのときに、道具が助けてくれるんじゃないかなって。そういう気持ちで接していましたね》(球活ipより)と語っています。そして、大リーグで数々の記録を打ち立てたレジェンド、イチロー氏も現役時代はグラブやバットを丁寧に扱う様子がよく取り上げられ、中には野球用具を「トロフィーのように扱う」と紹介した米国メディアもあったほどです。『イチローの流儀』(小西慶三著)では、イチロー氏の道具に対する思いが次のように記されています。《「道具を大事にする気持は野球がうまくなりたい気持ちに通じる」とイチローは言った。丹念にグラブを磨くことで、一つひとつの自分のプレーにかける思いは強まり、道具作りにかかわった人たちへ感謝の念が湧いた》。
昨年、大谷翔平選手が大リーグでMVPを受賞した際には、彼が高校時代に書いた81マスの「人生の目標達成シート」が頻繁に紹介されましたが、その中でも『道具を大切に扱う』という言葉が出てきます。道具を大切にしない選手は、感情を制御できずに道具に八つ当たりすることも多いですが、一流選手、名選手になるほど、道具や用具に感謝し、大切に扱う心が共通しているようです。一つのプレーのために、懸命に努力を重ねている人たちだからこそ、バット一本、グローブ一つが生まれるまでに、どれだけの多くの人の思いや手間がそこに込められているのかがきっと分かるのでしょう。未来のプロ野球選手を目指す子どもたちに、物を尊び、感謝する供養の心こそが、人々を魅了するプレイにつがっていくことを、ぜひ伝えていきたいものです。

参考・参照サイト
球活ip
花巻東時代に大谷が立てた目標シート(スポニチAnnex)

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